黒猫雑貨店[完結] 【07/7/22】黒猫雑貨店 第三幕 追憶夢見草 4. 夜闇と猫 Date 2007/7/22 私はダイニング・キッチン南側の窓越しに、夜の海を眺めていた。 海面は、白い月光と無数の星たちを写し、静かに揺れている。以前人形の瞳に用いたことのある、ラピス・ラズリに似ていると思った。 時刻は、真夜中過ぎ。親方 ―
黒猫雑貨店[完結] 【07/7/15】黒猫雑貨店 第三幕 追憶夢見草 3. 赤い封蝋 Date 2007/7/15 この家には、一本の大きな桜の木がある。ウッド・デッキの左に植わっていて、家の屋根と共に、ちょうどよい具合に西日を遮ってくれる。特に、今日のような真夏日には、なくてはならない存在だった。 私は花に水を遣る手を止め、後ろ
黒猫雑貨店[完結] 【07/6/17】黒猫雑貨店 第三幕 追憶夢見草 2. 箱に飾紐 Date 2007/6/17 その日は、私の十六歳の誕生日だった。 私は仕立屋のショウ・ウィンドウを眺めながら、まだ私がリュフェーシカにいた頃の誕生日のことを思い出していた。 一年の内、その日だけは、毎年決まってアップル・チーズケーキを焼くのだ
黒猫雑貨店[完結] 【07/3/18】黒猫雑貨店 第三幕 追憶夢見草 1. 憂鬱な日 Date 2007/3/18 ベージュのカーテンを左右に分け、それぞれタッセルで束ねると、私は静かに窓を開いた。さあ、と頬を撫でる、ひんやりとした潮風。 朝の気分に似つかわしくなく、空はどんよりと曇っている。 「いい天気ですね」 サニーサイドエ
黒猫雑貨店[完結] 【07/3/4】黒猫雑貨店 第二幕 幻想夜想曲 5. 遠き約束 Date 2007/3/4 昨晩まで降り続いていた雪は、見事に止んでいた。窓枠に切り取られた空は、澄んだブルー。私はゆっくりと体を起こし、ベッドの上に座る。 吐く息は白い。早朝の寒さが、身に染みるようだった。思わず身震いし、枕元にたたんであった
黒猫雑貨店[完結] 【07/2/17】黒猫雑貨店 第二幕 幻想夜想曲 4. 窓と燭台 Date 2007/2/17 この家の南側に位置する、ダイニング・キッチン。その中心に据えられたテーブルの、深紅のクロスの上に、金色の燭台が載っている。緩やかな波模様の装飾が施された燭台の先端で、赤い炎がゆらゆらと揺れていた。 オレンジの灯りに照
黒猫雑貨店[完結] 【07/2/7】黒猫雑貨店 第二幕 幻想夜想曲 3. 透明な青 Date 2007/2/7 リュフェーシカの中央広場に位置する時計台では、正午になると、決まって十二回、鐘が鳴る。その、三つの音からなる澄んだ音色は、今日も例外なく、私の小さな雑貨店まで届けられた。 半年ほど前から、毎週日曜日、この時間の習慣に
黒猫雑貨店[完結] 【07/1/21】黒猫雑貨店 第二幕 幻想夜想曲 2. 黒い外套 Date 2007/1/21 寒い冬の朝だった。窓の外に見える空は、重そうな白色。ちらちらと舞う雪が、今はきつね色となった庭の芝の上に、まだら模様を作り始めていた。 これから、吹雪くのかもしれない。私はそう思い、店の窓の雨戸を閉めようと立ち上がっ
黒猫雑貨店[完結] 【07/1/7】黒猫雑貨店 第二幕 幻想夜想曲 1. 満月の涙 Date 2007/1/7 シルバー・ブロンドの長髪を軽く梳くと、私は手にしていた木製のブラシを、そっと洗面台の上へ置いた。時刻は、九時ちょうど。 「おやすみなさい」 私は、鏡の向こうの青い瞳の少女に向かって小さく呟き、バス・ルームの灯りを消し
黒猫雑貨店[完結] 【06/8/16】黒猫雑貨店 第一幕 黒猫雑貨店 5. 扉と粉雪 Date 2006/8/16 この季節になると、ほぼ毎日がそうであるように、空は一面、白い雲で覆われていた。おそらく数分もすれば、街には雪がちらつき始めることだろう。私は空に向けていた視線を前に戻すと、一つ、短く白い息を吐き、再び歩き出した。 右
黒猫雑貨店[完結] 【06/8/9】黒猫雑貨店 第一幕 黒猫雑貨店 4. 夕風に花 Date 2006/8/9 私が仕事部屋で、白い生地にミシンをかけている時のことだった。突然、玄関の呼び鈴が涼やかな音を立てた。 振り返って時計を見ると、時刻は十二時三十分ちょうど。このような時間に ―― 否、このような時間でなくとも、今日、誰
黒猫雑貨店[完結] 【06/3/16】黒猫雑貨店 第一幕 黒猫雑貨店 3. 甘い星屑 Date 2006/3/16 私の住む土地であるマヤから、隣国イルークスのリュフェーシカまで鉄道で行くには、およそ一時間を要する。マヤの駅には大抵、一日に四回汽車が停まるが、内、リュフェーシカ直通のものは一本のみだ。 午前九時ちょうど、私たちは自
黒猫雑貨店[完結] 【06/1/30】黒猫雑貨店 第一幕 黒猫雑貨店 2.夢見る瞳 Date 2006/1/30 海の見える、北の出窓。そこに腰掛け、見た目五歳ほどの無表情な少女が、まだナイト・ウェア姿のまま、静かに水平線を眺めていた。 風にもてあそばれ、肩にかかる亜麻色の髪が微かに揺れている。 目立った家具といえばテーブルく
黒猫雑貨店[完結] 【06/1/8】黒猫雑貨店 第一幕 黒猫雑貨店 1.虹の破片 Date 2006/1/8 その店は、町の中央に位置するリュフェーシカ噴水広場から、北の大通りに入り、右手三本目の道 ―― 「カバラフ精肉店」 のある角 ―― を曲がって、暗い路地裏をしばらく行ったところにあった。 私は、手に持っていた手描きの地