拝啓    草原を渡る風までもが、新緑の色に染まる時節となりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。  前回いただいたお手紙では、綺麗な春紫苑の押し花をありがとうございました。早速、栞にさせていただきました。これで、読書 ...

黒猫雑貨店 幕後 夢の続き 0. 辞書の間

 馬車の窓から入ってくる風は、若芽の青い香りに満ちていた。  白い帽子の頭を抑え、少し外に顔を出せば、目の前には一面の草原が広がる。植物の一本一本が風になびいて揺れる様は、さながら白波のようだった。  御者台の先には、草 ...

黒猫雑貨店 第三幕 追憶夢見草 5. 桜色の空

 私はダイニング・キッチン南側の窓越しに、夜の海を眺めていた。  海面は、白い月光と無数の星たちを写し、静かに揺れている。以前人形の瞳に用いたことのある、ラピス・ラズリに似ていると思った。  時刻は、真夜中過ぎ。親方 ― ...

黒猫雑貨店 第三幕 追憶夢見草 4. 夜闇と猫

 この家には、一本の大きな桜の木がある。ウッド・デッキの左に植わっていて、家の屋根と共に、ちょうどよい具合に西日を遮ってくれる。特に、今日のような真夏日には、なくてはならない存在だった。  私は花に水を遣る手を止め、後ろ ...

黒猫雑貨店 第三幕 追憶夢見草 3. 赤い封蝋

 その日は、私の十六歳の誕生日だった。  私は仕立屋のショウ・ウィンドウを眺めながら、まだ私がリュフェーシカにいた頃の誕生日のことを思い出していた。  一年の内、その日だけは、毎年決まってアップル・チーズケーキを焼くのだ ...

黒猫雑貨店 第三幕 追憶夢見草 2. 箱に飾紐

 ベージュのカーテンを左右に分け、それぞれタッセルで束ねると、私は静かに窓を開いた。さあ、と頬を撫でる、ひんやりとした潮風。  朝の気分に似つかわしくなく、空はどんよりと曇っている。 「いい天気ですね」  サニーサイドエ ...

黒猫雑貨店 第三幕 追憶夢見草 1. 憂鬱な日