【魔杖職人の朝は早い】第0話 お腹がすいたら主従契約

第0話 お腹がすいたら主従契約

 
 
 もうね、ホント驚いたよ。いつも通り、森の入り口辺りで朝の散歩をしてたら、人がうつ伏せに倒れてるんだもん。
 ボロボロの服を着て微動だにしないから、てっきり死んでるのかと思った。「こんな幼い獣人の女の子が、行き倒れなんて可哀想に」とか「うえぇ、朝っぱらから死体なんて見たくなかったよう」とか、いろいろ考えつつも脇の下を棒で突っついてみたら、これがまた、動いたんだよね。ピクッと。
「大丈夫?」って声を掛けてみても返事はなかったけど、恐る恐るひっくり返してみるとあんまり可愛い子だったもんで、思わず連れて帰っちゃった。あっ、いや、可愛くなかったら助けなかったとか、そんなことはないよ?
 
 
 家に帰ってすぐ客用の布団を敷いて、とりあえずそこに寝かせてみた。医者を呼ぼうか迷ったけど、迷ってる間に薄ら目を開けたから、このまま家で介抱することにして、まずは蜂蜜入りの温めたミルクを飲ませてあげた。最初はぼんやりした顔で啜ってたんだけど、そのうち頭がはっきりしてきたみたいで、しくしく泣き出しちゃってさ。こんなに小さいのに、よっぽど大変な思いをしたんだろうな、って可哀想になったよ。
 少し落ち着いたところを見計らって、泥だらけの体をお風呂で洗ってあげた。石鹸で洗って乾かしてみたら、髪と尻尾がすごくふわっふわで可愛いの。尻尾は、触ると嫌がられちゃったけどね。「くすぐったい」って。そんな様子も、悶えそうになるほど可愛かった。
 ボロの服は捨てて、手持ちの部屋着を着せてあげたら、これがまた似合うの何の。アタシなんかが着るより、よっぽど。うん。やっぱりフリフリのワンピースは、可愛い女の子が着るに限るね。サイズがかなり大きくてイブニング・ドレスみたいになっちゃったけど、そこがまたグッときたよ。弟子のペーターに同意を求めたら、「確かに可愛いっすけど、オレにはそういう趣味ないんで、ちょっと」なんて、言葉を濁された。解ってないなあ。
 
 
 胃に優しそうなご飯をいっぱい食べさせて、たくさん眠らせて。三日くらいしたところで血色が良くなったもんで、「さて、これからどうしようか」ってね。ウチにも空いてる部屋はあったものの、使えない弟子を一人養ってるから、もう一人置いてあげる余裕もないし。たらい回しにするみたいで悪いけど、知り合いに声を掛けてみることにした。
 たまに酒場で一緒になるゲルトとベルンに飲みがてらそんな話をすると、ちょうどベルンが「森に行く際の案内人を雇おうと思ってた」って。従者にしてあげられないか聞いたら渋い顔をされたけど、兎人族なら森の案内は得意だろうし、とりあえず「使える」かどうか会って確かめてみたいって言ってくれた。
 翌日、アタシの家に彼を呼んだら――いやあ、これが面白かったの何の。傍で見てても「あっ、これ、運命の出会いを果たしちゃったヤツの顔だわ」って分かったよ。
 自分の半分くらいしか身長がない子に、屈んで目線を合わせてあげちゃってさ。結局、大して話もせずに「君、うちに来るかい?」って。終いには「よろしくお願いします、ご主人様」なんて言われて、鼻の下伸ばしてんの。アタシはこの時点で彼女の歳を聞いてたけど、何も知らずにあの対応じゃあ、ちょっと危ないオジサンだよね。一応、彼の名誉のために言っておいてやると、下心はなかったと思う。多分、アタシがあの子を拾って帰った時の動機と同じやつだわ、うん。
 
 
 そんなこんなで、フィーはベルンと主従契約を結ぶ事になった。相手は無害なオジサンとは言え、若い女子が他人の男と一つ屋根の下で暮らすなんて大丈夫かなあって、最初は思ったもんだけど。もう、かれこれ半年近くになるんだね。最近、ベルンが花なんか買って帰るところを見たって、知り合いから聞いたよ。上手くいってるみたいで、何より。
 あの二人、そのうち結婚とかしちゃうのかな。