【クラミノ×Ωバース】呼吸を奪うあなた

牧物(つな天)にオメガバース設定を持ち込んだクラミノ小説です。
作中でオメガバースについての詳しい説明はしておりません。

呼吸を奪うあなた

 
 
 入浴を終えたミノリがリビングへ戻ると、彼女の恋人――クラウスはベッドに腰掛け、園芸雑誌を捲っていた。Ω性である彼の発情期はまだ先のはずだが、今夜は「普通の」睦み事に誘われるのではとさっそく身構えたミノリは、ほんのり頬を染め、きゅっと体を堅くする。発情期のつがい相手の匂いに中てられた時が特別なだけで、普段は「こう」なのだ。
 クラウスはふと顔を上げ、ミノリが現れたことに気付くと、穏やかに微笑みかける。そして、自分の隣の空席をぽんぽんと叩いた。高鳴る鼓動を隠し、ミノリは何でもない風を装って、彼の傍らに腰掛ける。
 瞬間、甘い香りがふわりと彼女の鼻をくすぐった。その期間でなくとも多少、互いの匂いに反応してしまうのは、つがいの特性なのだろう。発情こそしなかったものの、動悸が余計に早まる。
「ミノリ」
 斜め上から降ってきた低い声に、思わず居住まいを正すミノリ。
「はい?」
 素っ頓狂な声で返したものの、クラウスはいつもの彼らしくなく、それを笑うことはしなかった。代わりにナイトテーブルへ手を伸ばすと、卓上カレンダーの裏から何かを取り出す。
 手にしていたのは、ラピスラズリのような紺色の包装紙でラッピングされた、小振りの箱だった。
「……突然で何だが、お前へのプレゼントだ」
 そう言って渡された箱を、ミノリは「ありがとうございます」と礼を言いつつ、はにかんで受け取る。そして、すぐに小首を傾げた。
「今日って、何かありましたっけ……?」
 ハハッと笑うクラウス。
「いや、特に何もないけどな。サプライズ、ってやつだよ」
「そうですか。何か忘れてたかな? って、本当にちょっとびっくりしちゃいました。嬉しいです」
 ニコニコ顔のミノリを前にして、クラウスも満足げに微笑む。
「開けてもいいですか?」
「ああ。気に入って貰えるといいんだが」
 ミノリは留めてあったテープを丁寧に剥がし、紙を破かないよう慎重に包装を解いていく。下からあらわれた黒色の化粧箱の蓋を開ければ、中に入っていたのは、生成色のナチュラルレースのチョーカーだった。幅広な付け襟様のデザインで、所々に薄緑色の小さな翡翠が縫い付けられている。
「わあ……! かわいいです」
 手に取ってじっくり眺めてから、さっそく着用してみようと動いたミノリの手を、クラウスが制した。
「オレが付けてやろう」
 チョーカーを受け取った彼は、ミノリの髪を少し避けつつ、彼女の首の後ろで器用に留め具を嵌める。
「これなら、残っちまった傷が隠れると思ってな。……毎日付けてくれると嬉しい」
 実は、クラウスには「他の雄の歯型」以外にも隠して欲しいものがあったのだが、ミノリ本人はまだ気付いていない様子だったので、それについては黙っていた。そんな彼の思惑など今はまだ知る由もないミノリは、ただただ幸せそうに「はい」と返事する。
 クラウスはナイトテーブルの引き出しから手鏡を引っ張り出し、ミノリに手渡した。
「うん、見立て通りだ。似合ってるよ」
「普段着にぴったりですね! 牧場仕事の時は外さないとですけど、町に出る時は付けさせてもらいます」
「ああ。そうしてくれ」
 頷きながら、彼は亜麻色の後ろ髪をさらりと梳く。その手で華奢な肩を抱くと、優しく引き寄せ、ミノリの唇をそっと塞いだ。